Genmai雑記帳

・・・人にやさしく

相続財産管理人:遺言検索の落し穴

 相続財産管理人や遺言執行者への就職時、資産負債の調査とともに絶対欠かしてはならない調査の1つに公正証書遺言の有無の調査があります。
 公証役場に申請すると、公正証書遺言検索システムにより照会してくれることは知られています。(正式には、「『遺言登録システム』による検索」と言うようです。)
 最寄りの公証役場にお願いすると連合会に検索を依頼してくれるのですが、この「回答書」(定型文書と思われますが)には、「〜この記録は, 平成元年1月以降にされた遺言についてのみ行われており, それ以前の分は記録されていません。」と書いてあります。(この「回答書」は消極証明の意味を持ちますので、正式なものではないのかもしれませんが、必要性や事情により、公証人が便宜的に出してくれているものと思われます。また、東京や大阪のものはもう少し前のものも含まれているようです。)
 この回答内容は、あくまで上記システム上に記録がない旨だけを述べております。では、それ以前の遺言の有無の調査をはどうやって調べるのかと言うと、個別の公証役場に、遺言の「閲覧、謄本の申請」を行なうしかないようです。
 従いまして、特定の公証役場に遺言の調査をお願いして、上記のような回答を得ても、それは、上記システム上の記録についてのみの回答であり、当該特定の公証役場に原本が保存してある遺言について確認したことにはならないわけです。(公証役場には、その役場に保存してある遺言について「遺言検索簿」なるものを備えているようで、これで検索して有無を見てくれるようです。また、時には、不定型かも知れませんが、この検索簿のことにも触れた回答書が出ている場合もあるようです。)
 と言うことは、相続財産管理人としては、遺言を行なった可能性のある公証役場がある場合、原則的には、公証役場に出向いて、直接「遺言の閲覧・謄本の申請」を行なうことと、別途、「システムへの照会依頼」の両方を行なわなければならないことになります。


 と言うことに気がついたのが、ある相続人不存在事件の特別縁故者への分与審判が出て1週間ほど経ったときでした。(即時抗告対象でしょうから、2週間で確定と思われます。)
 即、車を飛ばして公証役場に出向いて閲覧申請を行い、予想どおり「無いこと」を確認して、一安心しました。


 もし、相続財産管理人の遺言調査に不手際があって、受遺者をもらしたまま特別縁故者に対する分与が確定してしまった場合どうなるのでしょうか。分与審判が確定している以上、受遺者は権利主張できない可能性があると思われますが、いずれにしても、相続財産管理人(特に弁護士・司法書士である場合)の責任(場合によっては損害賠償)の問題が出てくることは間違いないと思われます。


 こうした問題は、遺言執行者への就任時や被後見人の死亡時にも出てきます。裁判所選任の会社清算人への就任時にも似たような問題が出てきます。
 近年、司法書士が財産管理事務を行なうことが多くなり、最近になって、そろそろ「相続人不存在の実務」とか「遺言執行者の実務」などと言う書籍も出てきましたが、これまでは、「財産管理の実務」と言った書籍があっても、1つ1つの事務について詳細に書いてある書籍はありませんでした。
 その結果、条文と裁判所指示に頼ることが多く、特に「資産・負債、遺言等の調査」の方法、程度などについては、自分で1つ1つ考えるしかないことが多いため、迷ったことも少なからずありました。
 思えば、10年程前頃から始まった債務整理事務や後見事務、預金相続書類の作成等の行政書士業務など、登記以外のいろいろな経験を通じて培ってきたノウハウこそがこれらに応用できてきたようにも思えます。
 あくまで個人的な感想としては、裁判所は、弁護士や司法書士がこれらの職にある場合、公益的な意味合いもある業務でもあることから、比較的、好意的だと思われます。(もちろん、報告事務を怠ったり、横領などの可能性がある場合は別ですが。)
 しかし、結果として、管理事務のミスを起こした場合、裁判所の個々の指示の有無などと無関係に、重大な責任を負う場合ありうることが充分予想されます。
改めて、遺漏なき、適切な管理事務を心がけたいと思います。