Genmai雑記帳

・・・人にやさしく

遺贈による売却の登記・清算型遺贈

 昨日upした判例のケースでは、意外にも、一旦、相続人への所有権移転登記が行われておりました。
 遺贈による登記は、包括遺贈でも特定遺贈でも、直接、遺言者の名義から受贈者に移転するものだと理解しておりました。
 この場合、遺言執行者がある場合は、これが義務者となり、無い場合は、相続人全員が義務者となります。*1

包括遺贈による登記の申請人【追Ⅱ247】
 包括遺贈による所有権移転の登記は、受遺者を登記権利者とし、遺言執行者又は相続人を登記義務者として、その共同申請によるべきである。(昭33.4.28、民事甲第779号民事局長心得通達)(登研462号同旨)


特定遺贈がなされた場合の登記の申請人(登研100号)
 ○要旨 特定遺贈がなされた場合に遺言執行者がなければ、相続人と受遺者との共同申請によって、遺贈による所有権移転の登記をすることができる。

 ところで、換価代金を遺贈するような場合については、下記の実例があります。これが、昨日の判例のケースのようです。

遺言に基づく登記申請手続(登研476号)
○要旨
1 遺言の内容が「遺言執行者は、遺言者所有名義の不動産を売却し、その代金を何某に遺贈する。」とある場合、売却による所有権移転の登記の前提として相続による所有権移転の登記を要する
2 1の売却による所有権移転の登記は、登記権利者を買受人、登記義務者を相続人全員とし、買受人と遺言執行者から遺言書を添付して申請できる。



 これでは、相続人に通知しないわけにはいかなくなるわけです。
 こうしたイビツとも言える登記形態をとるのは、不動産が受遺者に直接移転する場合は、死亡日(遺言効力発生日)を原因として、直接、受遺者に移転すれば良いけれど、こう言う場合は、売却自体を行ったのが遺言者とするには無理があり、また、死亡日以後の日を売買の原因日とした場合、その間の所有者は誰になるのかと言うことになり、また、民法上、遺言執行者は、「相続人の代理人」とされている*2ことから来たのではないかと思われます。
 一方、下記のようなものもあります。

遺贈による所有権移転登記の申請に於ける登記義務者(登研115号)
 ○要旨 遺贈による登記義務者本来遺贈者であるが、その登記は相続人、又は遺言執行者がその代理人となるものと解すべきで、したがって執行者が申請代理人となるときは相続人の記載は不要である。(登研116号もほぼ同旨)

 上記の「本来遺贈者であるが、〜相続人又は遺言執行者がその代理人となるものと解すべき」と言う点は、「相続人が代理人」とするのは無理があり、相続人が義務者となる場合は、「登記義務を承継したことによる」と言うように理解すべきかと思います。
 上記のように執行者により売却すべき場合に、一旦相続人名義とすると言うのは、「一応所有権は相続人に移転する」と言う考え方でしょうか?(民法1015条の擬制をどう考えるかと言うことなのでしょうか?)
 条件付きの遺贈や農地法の許可を得て行う遺贈登記の場合などは、死亡日以降の日が遺贈の原因日となることと考え合わせても、一旦、法定相続人全員の名義とする必要があるとは思えないところですが・・・・
 なお、下記のようなものもありました。

未登記不動産の遺贈登記の方法【追Ⅰ129】
 未登記不動産について遺贈の登記をするには、まず、遺言執行者において相続人のために所有権保存の登記をした後、受遺者名義に遺贈による所有権移転の登記を申請する。(大6.6.26、民第921号法務局長回答)(明33.8.2、民刑第798号民刑局長回答も同旨) (昭和34.9.21、民事甲第2071号通達により変更


遺贈登記の前提として台帳上の被相続人名義にする保存登記の可否【追Ⅱ481】
 遺贈による所有権移転の登記をする前提として、台帳上の被相続人名義に所有権保存登記をすべきである。

*1:ちなみに、「不動産全部」とか、「ある事業に関する一切の財産」と言うのは「特定遺贈」だそうで、農地なら許可が必要となります。また、包括遺贈は、負債も承継することになるようです。・・・「新不動産書式解説」

*2:1015条:遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。