Genmai雑記帳

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最高裁:譲受債権と相殺

昭和44(オ)655 譲受債権請求
昭和50年12月08日 最高裁一小 判決

裁判要旨

 債権が譲渡され、その債務者が、譲渡通知を受けたにとどまり、かつ、右通知を受ける前に譲渡人に対して反対債権を取得していた場合において、譲受人が譲渡人である会社の取締役である等判示の事実関係があるときには、右被譲渡債権及び反対債権の弁済期の前後を問わず、両者の弁済期が到来すれば、被譲渡債権の債務者は、譲受人に対し、右反対債権を自働債権として、被譲渡債権と相殺することができる。

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(抽出加工あり)

●訴外会社が上告人に対して有する売掛債権
〜会社は上告人に対し、弁済期昭和42年12月〜の売掛債権を有し、
上告人は本件約束手形を会社に宛てて振り出し
会社の取締役兼従業員であつた被上告人に交付した。

●上告人が訴外会社に対して有する手形債権
〜上告人は会社に対し、本件手形債権を有していたが、
会社が昭和43年1月倒産し〜期限の利益を喪失〜弁済期は同日到来した。

●会社から被上告人に対する、売掛債権の譲渡
〜被上告人は本件約束手形を紛失し〜会社に手形金相当額を弁償し〜代償として同年9月会社から本件売掛債権の譲渡を受け〜上告人に債権譲渡の通知〜

●相殺の意思表示
被上告人が上告人に対し売掛債権〜を求めて本訴提起、
上告人は本件手形債権をもつて請求債権と〜相殺の意思表示

最高裁の判断
 〜上告人は、本件売掛債権を受働債権とし本件手形債権を自働債権とする相殺をもつて被上告人に対抗しうるものと解すべきである。〜

 本文自体には、特段の説明が記載されておりませんが、続いて、下記が書いてあります。

●裁判官岸上康夫の補足意見
 〜債権が譲渡され〜債務者が譲渡通知を受ける前に譲渡人に対して金銭債権を取得していたとき、その弁済期が、被譲渡債権のそれより後であつて、かつ、右譲渡通知のあつた時点より後に到来するものでも、被譲渡債権の債務者が、右事実をもつて民法四六八条二項所定の「通知ヲ受クルマテニ譲渡人ニ対シテ生シタル事由」にあたるものとして、譲受人に対し、被譲渡債権を受働債権とし、自己が譲渡人に対して有する債権を自働債権としてする相殺をもつて対抗しうるかどうか〜

〜受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た地位が与えられるという機能を営む〜この制度によつて保護される当事者の地位は、できるかぎり尊重すべきであることは、最高裁〜三九年(オ)第一五五号〜の判示するところ〜。
 この判決は、債権が差し押えられた場合に〜五一一条の解釈を示したものであるが〜差押債権者と債権譲渡の場合に関する〜譲受人とは〜実質的に異なる立場にあるものではなく、
 また、債務者は債権が差し押えられた場合と譲渡された場合とにおいて別異な取扱を受くべき理由はないから、〜保護の要請は、被譲渡債権の債務者についてもひとしく妥当する〜。

 また、四六八条二項の立法趣旨は債務者の意思に関係なく行われる債権譲渡により債務者の地位が譲渡前より不利益になることを防止することにあると考えられ〜相殺をなしうべき地位を失うことが債務者にとつて不利益であることは〜明らか〜、

債権譲渡の通知を受けた時点において、債権者に対し法律上相殺に供しうる反対債権(自働債権)を取得しているときには、これをもつて同条項にいう「通知ヲ受クルマテニ譲渡人ニ対シテ生シタル事由」にあたるものとして、譲受人に対抗することができるものと解するのが相当〜。

したがつて

債権〜譲渡があつた当時債務者が譲渡人に対し反対債権を有する以上、たとえ反対債権の弁済期が、被譲渡債権のそれより後であつて、かつ、債権譲渡通知のあつた時より後に到来すべきものであつても、債務者は、両債権の弁済期が到来したときには、譲受人に対し、反対債権による相殺を主張しうるものというべき

・・・・・裁判要旨には、事例判決であることを強調してあるように「譲受人が譲渡人である会社の取締役である等判示の事実関係があるときには」、とあり、日評コンメ(手元にある古いもの)などにも、そのようなことが書いてありましたが、主文を読む限り、また、多数意見の理由となったと思われる、岸上康夫裁判官の補足意見を見ても、このような限定はありません。
 また、「相殺の実務」などを見ても、この判例を事例判決とは見ておらず、「無制限説」にたったものであるととらえているようです。

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