Genmai雑記帳

・・・人にやさしく

最高裁:相続回復請求に該当する場合

昭和48(オ)854 登記手続等
昭和53年12月20日 最高裁大法廷 判決
裁判要旨

 共同相続人の一人甲が〜本来の相続持分を超える部分につき〜自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し〜乙が右侵害の排除を求める場合には、民法八八四条の適用があるが、甲において〜乙の持分に属することを知つているとき、又は〜甲に相続による持分があると信ぜられるべき合理的な事由がないときには、同条の適用が排除される。

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 「相続回復請求」と言うのは、教科書で見たぐらいで、ほとんど実務に関係ないように思っていましたが、検討すべき事例が出ましたので確認しました。

(相続回復請求権)
第八百八十四条 相続回復の請求権は、相続人〜が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。

 大法廷判決なので、長いです。

〜自己の本来の相続持分をこえる部分について〜真正共同相続人の相続権を否定し〜自己の相続持分であると主張してこれを占有管理し〜侵害している場合につき、民法八八四条〜の適用をとくに否定すべき理由はない〜

として、相続人間にも、この条項の適用を認めた上で、

〜自ら相続人でないことを知りながら相続人であると称し、叉はその者に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由があるわけではないにもかかわらず自ら相続人であると称し、相続財産を占有管理することによりこれを侵害している者は、本来、相続回復請求制度が対象として考えている者にはあたらない〜

 なぜなら、

〜相続〜に〜争いがある場合であつても、〜相続にかかわりなく相続財産に属する財産を占有管理してこれを侵害する場合にあつては〜たまたま相続財産に属するというにとどまり、その本質は一般の財産の侵害の場合と異なるところはなく、相続財産回復という特別の制度を認めるべき理由は全く存在せず、法律上、一般の侵害財産の回復として取り扱われるべきものであつて、このような侵害者は表見相続人というにあたらない〜
〜自己の侵害行為を正当行為であるかのように糊塗するための口実として名を相続にかりているもの〜にすぎず〜一般の物権侵害者ないし不法行為であつて、〜相続回復請求制度の埓外にある者にほかならず、その当然の帰結として相続回復請求権の消滅時効の援用を認められるべき者にはあたらない〜

とし、結論として、

〜他に共同相続人がいること、〜本来の持分をこえる部分が他の共同相続人の持分に属するものであることを知りながら〜自己の持分〜であると称し、〜その者に相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由〜が〜ないにもかかわらず〜自己の持分〜であると称し、これを占有管理している場合は、もともと相続回復請求制度の適用が予定されている場合にはあたらず、〜侵害されている〜相続人からの〜請求に対し相続回復請求権の時効を援用してこれを拒むことができ〜ない〜

 とし、また、

〜一人又は数人が〜本来の相続持分をこえる部分について〜表見相続人として〜真正共同相続人の相続権を否定し〜自己の相続持分であると主張してこれを占有管理し〜侵害している場合につき、民法八八四条の規定の適用をとくに否定すべき理由はない〜が、
 〜一般に〜相続人の範囲を知つているのが通常であるから、〜相続財産に関する争いが相続回復請求制度の対象となるのは、特殊な場合に限られることとなる〜。

 としています。
つまりは、相続回復請求権の消滅時効を援用できる場合と言うのは、

1 他の共同相続人がいることについて善意であって
2 自己のみが相続人であると信ずる合理的事由がある(無過失)

  と言う場合に限られる、と言うことになりましょうか?


 なお、上記判決には、

〜可分債権(それは、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係には立たないものと解される。したがつて、この場合には、共同相続人のうちの一人又は数人が自己の債権となつた分以外の債権を行使することが侵害行為となることは、明白である。)〜

 としており、これは当然ながら、預金債権のようなものの場合は、不法行為によって処理すべきこととなりましょうか。
 その場合は、下記の適用を考えるべきでしょうか?

不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第七百二十四条  不法行為による損害賠償の請求権は、被害者〜が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。