Genmai雑記帳

・・・人にやさしく

最高裁:懲戒請求の呼びかけ2(懲戒請求権が何人にも認められていることの意義)

 昨日の平成21(受)1905 平成23年07月15日最二小判決について、主に懲戒請求の部分を見るため、参考意見を取り上げてみたいと思います。

裁判官竹内行夫の補足意見
(左記リンクの原文の中の下線は私が付したものです。)

(呼び掛け者)による〜呼び掛け行為は〜懲戒請求が広く何人にも認められるとされていることを踏まえた発言であるとしていること〜,本件懲戒請求〜には多くの視聴者が〜(呼び掛け者)の発言に共感したことなどが大きく寄与している〜ことに賛同する見地から,補足意見を述べておきたい。

懲戒請求権が何人にも認められていることの意義
 〜弁護士法58条1項は,「何人も」懲戒の事由があると思料するときはその事由を添えて懲戒請求ができるとして,広く一般の人に対して懲戒請求権を認めている。これは,弁護士に対する懲戒については,その権限を自治団体である弁護士会及び日本弁護士連合会に付与し国家機関の関与を排除していることとの関連で,そのような自治的な制度の下において,懲戒権の適正な発動と公正な運用を確保するために,懲戒権発動の端緒となる申立てとして公益上重要な機能を有する懲戒請求を,資格等を問わず広く一般の人に認めているものであると解される。

 これは自治的な公共的制度である弁護士懲戒制度の根幹に関わることであり,安易に制限されるようなことがあってはならない〜。

 懲戒請求の方式について,弁護士法は,「その事由の説明を添えて」と定めているだけであり〜格別の方式を要求して〜ない。仮に〜実質的に制限するような手続や方式を要求するようなことがあれば〜何人でも懲戒請求ができるとしたことの趣旨に反する〜。

 〜「懲戒の事由があると思料するとき」とはいかなる場合か〜は,
 懲戒請求が何人にも認められていることの趣旨及び
 懲戒請求懲戒審査手続の端緒にすぎないこと,並びに,
 綱紀委員会による調査が前置されていること(後記)及び
 綱紀委員会と懲戒委員会では職権により関係資料が収集されること
に鑑みると,
〜事実上及び法律上〜根拠なく懲戒請求をすることは許されないとしても,一般の懲戒請求者に対して上記の相当な根拠につき高度の調査,検討を求めるようなことは,懲戒請求を萎縮させるものであり〜広く一般の人に認められていることを基盤とする弁護士懲戒制度の目的に合致しない〜。

 制度の趣旨からみて,このように懲戒請求の「間口」を制約することには特に慎重でなければならず,特段の制約が認められるべきではない。〜

 〜広く何人に対しても懲戒請求をすることが認められたことから,現実には根拠のない懲戒請求や嫌がらせの懲戒請求がなされることが予想される。そして,そうしたものの中には〜不法行為責任を問われるものも存在するであろう。
 そこで,弁護士法においては,懲戒請求権の濫用により惹起される不利益や弊害を防ぐことを目的として,懲戒委員会の審査に先立っての綱紀委員会による調査を前置する制度が設けられている。〜

2 本件懲戒請求者の主体的な判断の意義
 〜懲戒請求者の主体的な判断を軽視ないし無視することは相当ではない〜〜,〜多数の懲戒請求がされたについては,多くの視聴者が〜発言に共感したこと等が大きく寄与したものとしている点は重要である。

 〜自身の実名,連絡先等を記入した書式を作成,提出して懲戒請求という能動的行為を行うに当たっては〜大きな関心を持ってそれなりに主体的な判断を行ったと考えるべきであろう。

 〜あたかも本件懲戒請求者の全てが〜呼び掛け行為によって〜「誤認」させられ,全く主体的な判断をすることなくして本件懲戒請求を行ったとするような見方は,一般の国民である本件懲戒請求者の主体的な判断をあまりに軽視するものであり,何人にも懲戒請求が認められていることを基盤とする弁護士懲戒制度に対する国民の信頼を損なう結果につながりかねない〜。

 国家機関の関与を排除した自治的な制度としての弁護士懲戒制度が,公正かつ適正に運用されることを担保して国民からの信頼性を維持して行くためには懲戒請求を広く一般の「何人」にも認めた弁護士法58条1項の趣旨が改めて銘記されることが必要であると考える。

 逆方向から考えますと、
懲戒請求を広く一般の「何人」にも認めている」のは、「国家機関の関与を排除した自治的な制度としての弁護士懲戒制度」があるからであり、これが公正かつ適正に運用されることを担保するためである、と言うことになると思われます。