Genmai雑記帳

・・・人にやさしく

東京家裁:遺言執行者の職務権限

昭和59(家)12665号 遺言執行者解任申立事件
昭和61年09月30日 東京家審
判決要旨

1.割合的な包括遺贈〜、遺言執行者の職務権限は遺産分割に至るまでの〜保全、管理に必要な行為〜に限られる。
2.包括遺贈の遺言執行者は〜確定判決がある場合を除き〜相続財産〜かどうかについて自ら判断する権能を有する。
3.遺言の無効の確認を求める訴訟が係属しても、その無効を確認する判決が確定したり又は職務の執行を停止する裁判がなされない限り、遺言執行者の法律上の権限、職責は制約を受けない。

 〜相続財産の範囲、遺言の効力等につき訴訟が係属しているなど〜事情がある場合〜遺言執行者に財産目録の未調製等があつたとしても〜解任事由とすべき職務懈怠〜ということはできない。

id:gen-mai の S610930東京家裁S59(家)12665遺贈執行者解任.pdf
(抽出・加工あり。原文参照)

〜包括遺贈の遺言執行者は〜包括的〜相続財産の全部について,財産目録の調製,管理その他の遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
−しかし,割合的包括遺贈の受遺者は当該割合の相続分を有する相続人の地位を取得する〜(〜990条),〜相続財産のうちのいずれを具体的に取得するかは財産分割によつてきまる〜。
−したがつて,全部的包括遺贈〜と異なり,割合的包括遺贈の場合〜執行者が受遺者に具体的な財産を取得させる行為(移転登記,引渡し等)をする余地はなく,かえつて〜遺産分割の申立て〜できる〜,割合的包括遺贈にあつては,遺言執行者が絶対に必要〜とはいえない。

〜執行者の職務権限は,包括的〜財産の全部に及ぶものの,なし得るのは遺産分割に至るまでの保全,管理に必要な行為に限られる〜。
〜相続財産の中から遺言者の債務を支払う職務権限もない。もつとも〜管理的権能の中には,全部的包括遺贈におけると同様に,相続財産の範囲に関する訴訟や遺言の効力に関する訴訟の当事者〜となる権能を含み,また,遺産の保全管理のために必要やむを得ない限り〜(管理費用の調達を含む。),遺産を処分〜も可能〜。

〜全部的であると割合的であるとを問わず,包括遺贈の〜執行者は,遺産の範囲〜確定の判決がある場合を除き〜財産が遺贈の対象〜かについて,自から判断する機能を有する〜
〜公文書〜意見聴取その他の〜資料の限りで〜判断〜に至らない財産〜財産目録に掲げることはできない〜,管理するに及ばない。

〜財産目録の調製,交付は,遅滞なく行われるべき〜,〜判断しかねるものがあつても調製未了〜にしておくことはできず,相続財産の範囲に関する訴訟が係属している場合〜結論〜待つ必要もない。
〜適当と認める調査の上で〜判断するに至らないもの〜上記の基準によつて措置するほかなく〜財産目録に掲げたり,管理したりするに及ばない〜財産目録の調製,交付自体はこれを遅滞させてはならない。

〜遺言の無効の確認〜訴訟が係属〜判決が確定したり〜職務の執行を停止する裁判がなされない限り〜執行者の法律上の権限,職責は制約を受けない。〜状況により,果断な処分行為は差控えた方がより妥当な場合があろう。

〜財産目録を調製していないこと〜問題がある〜。
〜遺言無効等確認訴訟が係属中〜遺産の範囲に関してかなり広範な争い〜本件では〜財産目録が調製,交付されていないこと自体が相続人らに実害を与えているとは認められない。〜本件の場合〜財産目録の調製,交付未了の点をもつて〜解任〜相当〜落度〜ということはできない。〜

〜上記訴訟の結果〜建物が相続財産であることが確定すれば〜保管された果実も分割の対象となる〜反対に〜固有資産であると確認されることもまたあり得る〜職務外であるとして〜果実(賃料)の事実上の保管を拒み〜返還するのが至当であるともいい難い。〜正規の管理行為としてではなく事実上の保管をすることは,少なくともーつの選択として是認できる〜〜

〜なお,包括遺贈の〜執行者〜財産目録には〜負債(消極財産)をも掲げるべき〜が,〜金銭債務は当然に相続人らが分割承継〜目録の記載のいかんにより債権者が請求〜できなかつたりするものではない。〜遺言執行者の職責は受遺者や相続人に対するもの〜直接債権者に対して負つているのではない。

〜土地を取戻す手続をしないこと)について
〜執行者において明らかには〜権利関係を認識するに至らないとすれば〜管理保全の措置をとるべきではない。〜
〜仮に〜この土地に対する法律上の占有権原がないとしても,同人が相続人の一人であり,相続開始前からここに自己の建物を所有して占有していたとすれば,遺産分割までの〜管理の方法として〜取戻しをすることが適切であるということはできない。

〜執行者は,単に遺言無効確認訴訟が係属しているだけでは,法律上その職務権限を制約されることはない。〜遺言者に対する金銭債権があつたとしても,本件遺言執行者は〜返済する職責をもたない〜職務懈怠はない。

☆遺言と遺言執行〜(松井先生)9−具体的執行行為 - g-note(Genmai雑記帳)で引用しておられましたので、読んでみました。