Genmai雑記帳

・・・人にやさしく

抵当権抹消の権利者

抵当権抹消の権利者には、前主も含まれるか?
(教科書的には含まれるわけですが、あまり経験したことがありません。)
(以下、抽出・加工あり。原文参照)

登研681(H16.10)-p40「不動産登記法逐条解説(12)」香川保一

〜抹消の登記の未了の間に、甲から乙への所有権の移転の登記がされた場合、登記実務においては、甲、乙とも〜権利者となり得るものとしている。
しかし〜抹消によって登記上直接利益を受ける者は、乙のみ〜甲をも〜権利者となり得るものとする考え方〜疑問なしとはしない。

甲も〜権利者となり得るとする理由として、甲は、乙に対し〜抵当権の負担を負っていない所有権の移転の登記をすべき義務を負っているから、その義務の履行として〜抹消請求権を〜有しているとするのであるが、かくては、〜抵当権の消滅の時点が乙が〜取得する前である場合にのみ甲が権利者となり得る〜原因の日付により左右されるわけである。

〜登記実務においては、便宜的に甲を〜権利者とする申請も適法として取り扱っているに過ぎない〜が、再検討すべき〜

登研624(H12.1)-p73「不動産登記法逐条解説(12)」
上記に先立って、ここでも香川先生はほぼ同内容の説明をしておられます。

甲から丙への〜移転の登記がされた場合、その登記が抵当権の消滅前であれ、消滅後であれ〜抹消〜により登記上直接利益を受けるのは丙であるから、丙が〜権利者となることはいうまでもない。

とした上で、上記の「〜負担〜ない〜移転の登記をすべき義務〜の履行」と言う考え方について、

移転の登記前に〜抵当権が消滅していた場合、甲も〜権利者となり得るであろうか。
〜義務の履行のため〜抹消の〜請求権がある〜とする考え方もあり得よう。
〜このことは〜移転の登記後に抵当権が消滅したときも同じ〜とする考え方もあり得よう。〜

と書いた上で、上記と同じ理由で甲に登記請求権を認める考え方は疑問であると書いておられます。


 上記からすると、香川先生は、「抵当権消滅後に移転があった場合においても、本来、権利者となり得るのは買主のみと解すべき」と考えたが、便宜的な登記実務にも考慮して、売主が権利者となり得るとしても、少なくとも「所有権移転原因より前に抵当権が消滅した場合に限るべきだ。」と書かれた、と言うように読めました。(?)

 実情から言えば、売買に際しては、「負担のない移転登記」と言う意味は大きく、やむを得ず、登記上は負担付で移転登記がなされた場合であっても、抹消は売主の義務の履行としてとらえるのが、一般の感覚に合っていると思われます。

 また、上記からすると、現行の取り扱い自体は、移転登記後に抵当権が消滅した場合でも、甲を権利者とする申請は認められているようにも読めますが(?)、これも、実際に売主の義務の履行(が遅れた場合)と考えますと、認めて良いようにも思います。

 かつて、融資金である売買代金をもって抵当権を抹消して移転登記すべき事案において、抹消権利者の書類徴求が間に合わず、とりあえず、移転と抵当権設定を行った上で、後日、抹消したことがあります。
 その際は、いろいろ考え込んで、登記官と協議した結果、権利者は買主として、添付情報たる解除証書の名宛は売主として抹消申請を行いましたが(費用負担は売主)、本来はやはり売主を権利者とした方がすっきりしますね。

 なお、上記と同じように考え込んでしまった事案として、滅失登記を行う際に、既に、その登記名義人から買主に所有権が移っている場合、前提として所有権移転が必要かどうか、などと言うこともありました。(当時の法務局担当者の見解では、「名義人」が申請適格者だから、名義人の申請で良い、との話しではありましたが・・・・。)