Genmai雑記帳

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東京高裁:遺産分割協議証明書に署名した者の相続放棄

2014-10-06判例時報2229号の、遺産分割協議証明書に押印した者の相続放棄事例が紹介されておりましたので読んでみました。(田端先生感謝)

平成25(ラ)1685 相続放棄申述却下審判に対する抗告事件
平成26年03月27日 東京高決
裁判要旨

1.不動産〜知っていたものの被相続人の意向を聞いていたために、長男が一切を相続したので〜相続財産がないものと信じていたことが認められ、生前の交流状況〜信じたことについて相当の理由があったと認める。

2.「遺産分割協議証明書」は、登記するために送付等されたもの〜現実に遺産分割協議がされたものではないから〜相続の開始〜知ったものとは認めることはできない。

(抽出・加工あり。原文参照)

被相続人は〜自宅〜ほかの不動産〜を所有〜負債〜松夫の〜信金〜貸金債務にかかる連帯保証債務〜。
〜竹子は〜婚姻後〜五か月間を除いて〜同居したことはなく〜訪れるのは、月二回程度〜
〜梅子は〜婚姻後〜同居したことはなく〜会うのは年一、二回〜

(3)〜生前〜全て松夫に譲る意向〜〜聞いており〜不動産〜を知ってはいたものの〜債務の存在は知らず、松夫が〜一切を相続したもので、自分たちが相続する財産はないと考えていた。〜相続放棄の申述をすることはもちろん〜遺産分割協議をすることもなかった。〜

(4)〜不動産について松夫の名義に移転登記したいので、「遺産分割協議証明書」に署名押印してほしい旨の申入れを受け〜署名押印〜送付〜梅子も〜交付〜。〜署名押印〜送付〜することで、松夫が〜全て承継〜自らは〜放棄をしたと考えていた。〜

(8)〜保証債務が存在することを知った。
(9)〜〜知らなかった旨、放棄の理由債務超過、負債不明と〜記載して〜本件各申述を申し立てた。〜却下〜〜

〜死亡〜当時〜相続〜不動産があることを知っていたものの〜意向を聞いていたために〜松夫が〜一切を相続したので、自らには〜相続財産がないものと信じていた〜。
被相続人の意向、被相続人と抗告人らとの生前の交流状況からすると、抗告人らが、上記のように信じていたことについて、相当の理由があった〜とも認められる。

〜「遺産分割協議証明書」に署名押印〜送付又は交付〜、上記書面は〜松夫名義に移転登記するために〜送付等されたものであり、現実に遺産分割協議がされたものではないから、この書面の送付等をもって、自己のために相続の開始があったことを知ったものと認めることはできない〜(この点に関する経過の詳細等については、訴訟が提起された場合にその訴訟手続内において判断されるべきである。)。

寄居先生も、取り上げておられました。
http://shimanami.way-nifty.com/rikoninaka/2014/10/post-5aef.html

最高裁:相続放棄の熟慮期間 - g-note(Genmai雑記帳)に基づいた判断ですが、こう言うケースはたまにあり、
私は、昭和59年判例を意識した、詳しい事情などを書いた上申書などを添付しております。

しかし、寄居先生も書いておられるように、本事例の場合、「気になる点は、遺産分割協議書を作成しているという点」です。

 同じよう事例として目にするものに、銀行預金の解約のために、「相続人代表届」に押印したような場合もありますが、
これらの場合について、「現実に遺産分割協議がされたものではない」と言うことを理由に、「自己のために相続の開始があったことを知ったものと認めることはできない」とすることには、かなり無理があるように思えます。

 これらの書面に署名押印して交付してもらうためには、実際には、電話等で連絡し合っているはずであり、それでは「実質の協議でなかった」とすると、「遺産分割協議です。」と宣言でもして協議を開始しない限り「協議でなかった」ことになりかねず、一般の「協議」の実態からみても、不合理です。

 むしろ、他の一切の資産などを「何も承継しなかった。」と言う点などに着目した解釈の方が自然であり、また、他のケースにも拡張しやすいように思え、更に、「この点に関する経過の詳細等については、訴訟が提起された場合にその訴訟手続内において判断されるべき」と言う判断においても有用のような気がしますが??