Genmai雑記帳

・・・人にやさしく

不在者財産管理人による処分と相続放棄

内藤先生が、注目判例を紹介されていましたので、読んでみました。(いつも感謝)

平成26(ネ)148 貸金請求控訴事件
平成26年9月18日 名古屋高判
判示事項の要旨抜き書き

 不在者財産管理人が,不在者が相続した財産を家裁の許可を得て売却した行為〜不在者にとって〜単純承認に当たる〜後に〜相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にした相続放棄は無効〜事例

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(抽出・加工あり。原文参照)
2 前提事実

次のとおり原判決を補正〜
(6)〜原判決〜を,次のとおり改める。
「本件不在者財産管理人は〜特約事項として〜家裁〜より所有権移転の許可を得られた場合に〜有効〜でとする旨を定めた上〜不動産〜を2200万円で売却する旨の売買契約を締結〜亡Bの死亡による相続を原因とする控訴人Aに対する所有権移転登記手続を経て〜Oに売却〜。
〜不在者財産管理人は,上記売買代金〜をもって,被相続人のP信用金庫に対する債務を弁済した。

(7) 原判決〜を,次のとおり改める。
「亡Cは〜A(法定代理人は本件不在者財産管理人)を被告として〜地裁に提訴〜認容する判決〜確定〜

(1) 当審における控訴人Aの主張
ア 〜不在者財産管理人に単純承認を行う権限がなく〜売却処分の効力が〜Aに帰属しないこと

相続放棄は,行使上の一身専属的な権利〜不在者財産管理人は家裁の許可なく〜できない〜
〜同様に〜家裁〜の許可なく〜相続承認を行うことはできない。
〜相続承認を行う場合〜財産行為について家裁〜の権限外行為許可を受けていたとしても,これとは別に身分行為としての相続承認について〜権限外行為許可を得る必要がある。

〜相続の承認〜には家裁〜の許可を不要とする見解はあるが,これは〜承認が通常価値増加的なものであることを理由とするもの〜本件〜価値減少的な行為であることからすれば〜許可を要すると解するべき〜

イ 錯誤無効

〜不在者財産管理人は〜本件売却〜を行った〜当時〜本件貸金の存在を認識しておらず,亡Bの消極財産は,P信用金庫に対する債務のみであったと信じて本件売却処分を行ったもの〜,亡Bの遺産の構成について錯誤に陥っていたといえる。〜本件売却処分は錯誤により無効〜

2 当審における控訴人Aの主張に対する判断

(1)〜Aは,相続放棄は,行使上の一身専属的行為〜不在者財産管理人は権限を有さず,家裁〜の許可〜必要〜,相続承認についても同様に,家裁〜の許可が必要〜旨主張〜

〜921条1号本文〜相続財産の処分行為〜相続の単純承認があったものとみなしている〜かかる行為は〜単純承認しない限りしてはならないところであるから〜黙示の単純承認〜推認しうるのみならず,第三者からみても単純承認があったと信ずるのが当然であると認められることにある(〜昭和40年(オ)1348・同42年04月27日1小判〜)。

〜本件売却処分は,亡B名義〜本件不動産について〜Aに所有権移転登記を経由した上で,Oに〜売却するというもの〜,不在者の法定代理人である〜不在者財産管理人が家裁の許可を得た上に行った相続財産の処分行為となる本件売却処分について〜921条1号本文の趣旨を上記と別に解することはできない。

〜また〜加え,本件売却処分が亡B名義の本件不動産の売却に係るものであったことに鑑みれば〜売却処分によって〜Aに同号本文による単純承認の効果が生じることは明らか〜そのような本件売却処分について,財産上の許可とは別に,単純承認のための家裁の許可が必要であるとの〜Aの主張を採用することはできない。

(2)〜Aは〜不在者財産管理人は,亡Bが本件貸金債務を負っていることを知らず,亡Bの債務がP信用金庫の債務のみであると認識して本件売却処分を行ったことから,遺産の構成について錯誤があった旨主張〜。

〜921条1号本文は〜相続財産の処分行為をもって単純承認があったものとみなすとするもの〜処分行為についての錯誤とは別に,単純承認の錯誤を認めるのは相当でない。〜

〜そして〜主張する錯誤は〜遺産の構成についての錯誤〜,仮に〜認められるとしても〜本件売却処分についての錯誤の主張ではない〜,〜本件売却処分について錯誤は認められず(仮に,本件売却処分についての錯誤の主張をするものであるとしても,動機の錯誤にすぎず〜無効にはならない。),本件売却処分が有効である以上,単純承認の効果が生じる〜

 丁度、相続人の一人に行方不明者がおり、「失踪」か「不在者」か関係者の話しを聞いていた所です。

 不在者財産管理制度は、実際に多くの案件に携わっていると、とても不充分な所が多く、悩む案件に遭遇することも少なくありません。

 しかし、いずれにしても、「不在者の利益を損なってはならない。」と言うのが基本であり、本判決のように理解すると、結局は、制度趣旨を失ってしまいかねません。

 第三者との関係において、やむを得ないと言う所かもしれませんが、実務上は、困った判例だと思います。
私ごときは理論的に何も申せませんが、最高裁当たりで、再度、深い解説を頂きたいと思います。