Genmai雑記帳

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最高裁:取得時効における無過失事例

昭和46(オ)808 土地所有権確認請求
昭和46年11月25日 最一小判
裁判要旨抜き書き

 甲〜乙が丙所有〜地の各一部ずつを買い受け〜、隣接の丁所有〜地との境界を誤認〜、甲が乙〜地の一部〜を占有〜、測量士が公図〜参照し丁からも境界を聞いたうえで測定〜、丙の代理人、甲〜乙が立ち会つて〜範囲を定め〜丙から〜引き渡された〜、甲において〜みずから公図〜区画整理〜図面〜調査しなかつた〜甲は〜占有の開始につき無過失〜。

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(抽出・加工あり。原文参照)

被上告人(甲) a番1の買主 a番2の一部を占有
上告人(乙) a番2の買主  
D(丙) a番の売主  
(丁) 隣接地b番所有者  

〜被上告人〜上告人が〜D所有のa番の土地のうちから各〜五〇坪)ずつを分割して買い受け〜、
測量士公図〜参照し〜隣地b番の〜所有者からも〜境界を聞いたうえで測定〜、
〜売主の代理人、被上告人〜上告人が立ち会つてa番、b番両土地の間の境界を定め、そこから北へ順次間口七・二七メートル〜ずつの部分を上告人、被上告人がそれぞれ取得〜とし、
〜被上告人は売主から〜引渡しを受けて占有を開始〜

〜b番〜との真の境界は〜〇・九一メートル〜北にあつて〜係争地は上告人の買い受けた土地に含まれるべきものであつたが、被上告人が当時事前に公図を見たとしても、真の境界を知りえたかどうかはきわめて疑わしい〜

〜被上告人が当時みずから公図を見〜区画整理〜図面について調査しなかつたとしても〜自己の所有に属するものと信ずるにつき過失があつたものと認めることはできず〜原審〜正当〜。

 「やるべきことはやっている」のだから無過失、と言うことだとは思いますが、
結果的に、「やったって同じだったかもしれない。」と言うのが理由となっているのが気にかかります。

事例を聞いて、すぐに引っかかるのは「測量士」が「公図」を参照して〜と言う所です。

当該地は、区画整理が行われた土地のようですので、今なら当然、1/500程度の不登法14条図面があるはずです。
その程度の図面があれば、おそらく、1m近い誤差にはすぐ気づくはずですし、
そうであれば、区画整理図面(近年のものなら座標値さえ残っているかもしれません。)を調査すれば、すぐに境界誤認が明らかとなったはずです。

土地家屋調査士の測量なら当然気がついたでしょうし、司法書士なり、少し知識のある宅建業者が関与していれば、こうした誤認が防げた可能性は高いように思えます。

と言う意味でも「真の境界を知りえたかどうかはきわめて疑わしい」と言う点には引っかかります。

(以上は、昭和40年代当時と言うことを考慮せずに書いておりますが、当時の区画整理図面でも、そこまで悪くはなかったのではないでしょうか?)

むしろ、そうした結果論的な理由ではなく、上記一連の手続的経緯を踏んでいることから、無過失が推定できると考えたいと思います。
更に言えば、私自身は、上記一連の手続を踏んでいなかったとしても、関係者の言葉から確認していると言うだけでも無過失と考えたいです。

根底にあるのは、
(上記のような区画整理があったような場所や地価が高い都会地は例外的な場合として、全国的に言えば、)
「公図は当てにならない」(場合によっては、これを前提とした登記名義自体も当てにならない)と言う、業界や社会の常識がある、と言う点です。

なお、本判例について「要件事実マニュアル」は、「従前誰の所有であったかを確定する必要がなく」と言うことの根拠として引いておられました。

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