Genmai雑記帳

・・・人にやさしく

東京高裁:司法書士の偽造調査義務ある場合

平成16(ネ)4565 損害賠償請求控訴事件
平成17年09月14日 東京高判
要旨抜き書き

司法書士〜偽造、変造〜関する真否〜は、特に依頼者から〜確認を委託された場合や〜一見して明白である場合のほか〜相当な理由が存する場合は、〜適宜の措置義務がある〜違反〜〜善管義務〜債務不履行責任〜不法行為責任〜余地〜

司法書士としての善〜管〜注意義務に違反〜権利証+印鑑〜証明書が偽造〜を見過ごした過失〜主張〜
債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求として、売買代金相当額+弁護士費用〜合計2億〜円〜を求めた事案〜

原判決

〜印鑑〜証明〜に〜透かしのないことを見過ごし〜過失〜、〜不法行為〜損害賠償責任〜原告にも相当な落ち度〜8割5分の過失相殺〜3113万〜円の限度で〜認容〜。

第3 当裁判所の判断 

〜事実関係〜次のとおり付加、訂正〜ほか、原判決〜の〜とおり〜
(1)〜「免許番号は異なるものの極めて精巧に偽造された」〜。
(2)〜被告は〜早ければ〜12日にも登記申請を済ませたいとの希望を聞いて、何も準備する暇もなく○○の喫茶店に駆けつけた。」を加え〜
(3)「〜印鑑証明書等には、四隅に不自然な余白はなく、コピーした用紙に顕出される「無効」「偽造」などの透かしは見られなかったこと等から、カラーコピーの可能性はなく〜権利証についても〜紙質に不自然な点はうかがわれなかった。」〜
(4)〜住民票等を参照することなく、氏名〜住所地をすらすらと記載した。〜
(6)〜

(1)一般に司法書士が登記申請を依頼される場合〜権利が速やかに実現されるように登記に必要な書類の徴求を指示し、依頼者が用意した書類相互の整合性を点検して、その所期の目的に適った登記の実現に向けて手続的な誤謬が存しないかどうかを調査確認する義務を負う〜

〜依頼者の用意した書類が偽造、変造されたものであるか否かの成立に関する真否〜は、特に依頼者からその旨の確認を委託された場合や〜偽造or変造〜であることが一見して明白である場合、さらに後に述べる専門家としての立場から要請される場合を除き〜原則として〜調査義務を負わない〜

依頼者が司法書士に〜登記申請を依頼する本旨は〜登記の速やかな実現〜、そもそも〜法律関係の当事者でない司法書士においては、特段の事情のない限り書類の真否を知り得る立場にはないし、当事者の取引や内部事情に介入することはその職分を超えたもの〜、書類の真否といった事柄は、本来的に依頼者において調査確認すべきもの〜

一審原告は、〜司法書士に登記〜を依頼する一般市民の常識としては〜本人の意思確認を含めて書類の真正についても依頼したと考えるのが通常〜、〜特段の依頼等がない限り〜書類の真正について基本的に責任を負わないということになれば、一般市民の司法書士に対する信頼は失墜〜と主張〜。

〜登記は形式的な事項に関しても極めて専門的技術的な側面を有し〜不登法〜不登令〜不登規則〜などの関係法令に細かい規定〜、必要書類の徴求や申請書類の作成に限っても、法律的な知識や実務に精通した司法書士の役割は大きいもの〜、司法書士が基本的には書類の真正について責任を負わないと解したからといって、一般市民の司法書士に対する信頼が失墜するとの非難は当たらない。

(2)〜司法書士法〜業務の適正を図ることにより、登記等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し、もって国民の権利の保護に寄与することを目的〜、〜常に品位を保持〜業務に関する法令〜実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならず〜、〜しかも、法定の資格〜者のみが司法書士となり得る〜。
 〜趣旨〜司法書士は、国民の登記制度に対する信頼と不動産取引の安全に寄与すべき公益的な責務がある〜、具体的な登記申請の受任に当たっても、依頼者としては司法書士の高度な専門的知識や職業倫理に期待を寄せているといって過言ではない〜司法書士としても、具体的な事案に即して依頼者のそのような期待に応えるべき〜専門的知見を駆使することによって依頼に関わる紛争を未然に防ぐことも、登記の速やかな実現の要請とも相侯って、依頼者との委任契約上の善管注意義務の内容〜若しくは〜付随した義務の内容となり得る〜

 このような観点から〜真否〜確認義務の有無を改めて考察〜、
〜依頼者から特別に真否の確認を委託された場合や〜旧〜法44条〜保証を委託された場合も、当事者の同一性や登記意思に関する慎重な配慮が求められるから〜職責を果たす上で書類の真否を調査する必要〜あろう。〜偽造〜変造〜であることが一見して明白である場合のほか、依頼の経緯や業務を遂行する過程で知り得た情報と司法書士が有すべき専門的知見に照らして、書類の真否を疑うべき相当な理由が存する場合は〜書類の成立について調査確認して依頼者に報告したり、少なくとも依頼者に対して注意を促すなどの適宜の措置を取る義務があるというべき〜。〜このような義務に違反〜依頼者に対し、委任契約上の善〜管〜義務を怠ったとして債務不履行責任〜不法行為責任を負う〜と解する余地〜

(4)〜権利証の偽造について
 〜本件登記済権利証に記載された〜ころには印影に朱肉印が使われており、これは登記実務上常識的なこと司法書士の一般的知見として知っておくべきこと〜、〜スタンプ印が使われていたから〜見過ごした〜過失がある旨〜。
 〜昭和52年から昭和53年にかけて〜〜出張所において朱肉印が使われていたことが〜登記実務上常識的であったとか、司法書士が有すべき一般的知見であるなどとの事実を認めるに足りる証拠はない。

 なお〜登記済印〜は既に廃棄〜印影が公印使用届の綴りに保管してあったこと〜申請の審査に当たった登記官は〜登記済印の字体が少し違っている感じがしたことから、公印使用届を確認したところ〜真正のものと相異〜かつ〜当時は朱肉印が使われていたことを知り〜偽造〜を見破った〜、登記官は、職務上の特別な立場を利用して偽造を見破ったものといえ〜その契機も字体の相異を疑ったことによる〜朱肉印が使われていたことは〜公印使用届を確認して知ったものとうかがえる〜朱肉印でなかったことを見過ごしたからといって〜善管注意義務違反を問うことはできない〜

(5)〜印鑑〜証明書等の偽造〜

イ 〜横浜市章の〜透かし〜、〜光源にかざして透かしを確認することをしなかった〜過失〜主張〜。
 〜一見して透かしがあると誤認させるように細工〜極めて精巧な偽造〜一見して明白〜とはいえないもの〜。
 さらに〜被告は〜印影の照合を行い〜裏返し、机の上で、変形菱形の影があることを確認し、透かしが施されていると判断〜、〜四隅に不自然な余白はなく、コピーした用紙に顕出される「無効」「偽造」などの透かしが見られないのでカラーコピーでないことも確認〜。
〜加えて〜Aに対して、運転免許証の提示を求め〜事前に調べておいた自宅の電話番号を答えさせたり、委任状等に他の文書を参照することなく住所を書かせたりするなど、念入りに本人確認の措置を講じ〜不自然な仕草などは見られず〜関係者からも〜不安を覚えるようなそぶりもなかったことがうかがえる。〜真否を疑うような契機はなかった〜。
 〜更に〜光源にかざして透かしの有無を〜点検すべきであったとまでいうことはできず〜これを行っていなかった点だけをとらえて〜善管注意義務違反を問うことはできない〜。

ウ 〜見破った登記官は〜透かしが〜なかったことからすぐに偽造〜と分かりましたと述べているが〜まずもって〜権利証の偽造を疑い〜偽造〜が判明したので〜印鑑〜証明書等も偽造〜と考えて点検した〜、〜権利証〜偽造が〜職務上の特別な立場、経験によって発覚することがなければ〜印鑑〜証明書等の偽造も〜判明しなかったとも考えられる〜偽造を見破るのが容易であるとはいえない。
エ〜印鑑〜証明書等の偽造〜善管注意義務違反を問うことはできない。
(6)以上〜債務不履行責任ないし不法行為責任はない〜