Genmai雑記帳

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大阪高裁:遺産分割後の相続放棄

平成10(ラ)54 相続放棄申述却下審判に対する即時抗告申立事件
平成10年2月9日 大阪高決
判示事項

 遺産分割協議は法定単純承認事由に該当~が、~多額の相続債務の存在を認識していれば~相続放棄~採っていたものと考えられ、相続放棄~を採らなかったのが相続債務の不存在を誤信していたためであり~本件遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり法定単純承認の効果も発生しないと見る余地があるとして、相続放棄~を却下した原審判を取り消し~事例

(以下、抽出・加工あり。原文参照)

(1)被相続人は、平成9年4月30日死亡~抗告人~は、同日、~死亡の事実と~相続人となった事実を知った。
(2)抗告人らは、平成9年8月1日、~妻MK+長男MYと遺産分割の協議をし、~○番~宅地と建物をMKに、~○番~宅地と建物をMYに取得させる旨の遺産分割~協議書を作成~登記~。
(3)抗告人らは、同年9月29日、○○公庫から呼び出しを受け、被相続人が、MYの経営する株式会社~の連帯保証人となっており~510万円の連帯保証債務を負担していることを知らされ、MYから事情を聞く等して調査した結果、右公庫の債務以外にも、相続債務として株式会社~銀行に対し少なくとも約4400万円を下回らぬ連帯保証債務があることを知り、平成9年11月1日、本件各相続放棄の申述~

原審

~遺産分割協議により遺産について処分行為をしたもの~法定単純承認事由に該当~申述は法定単純承認後の申立~、不適法~却下

大阪高裁

(1)915条①~熟慮期間については、相続人が相続の開始の原因たる事実+これにより自己が法律上の相続人となった事実を知った場合であっても、3か月以内に相続放棄をしなかったことが、相続人において、相続債務が存在しないかor相続放棄の手続をとる必要をみない程度の少額にすぎないものと誤信したためであり、かつそのように信ずるにつき相当な理由があるときは、相続債務のほぼ全容を認識したときor通常これを認識しうべきときから起算するべきもの~

(2)本件~抗告人らは、平成9年9月29日、○○公庫から相続債務の請求を受け、MYに事情を確認するまでは、前記認定の多額の相続債務の存在を認識していなかったものと認められ、生前の被相続人と抗告人らの生活状況等によると、抗告人らが右相続債務の存在を認識しなかったことにつき、相当な理由が認められる蓋然性は否定できない。
  
(3)もっとも、抗告人らは、他の共同相続人との間で本件遺産分割協議をしており、右協議は、抗告人らが相続財産につき相続分を有していることを認識し、これを前提に、相続財産に対して有する相続分を処分したもので、相続財産の処分行為と評価~でき、法定単純承認事由に該当~というべき~
 
-しかし、抗告人らが前記多額の相続債務の存在を認識しておれば、当初から相続放棄の手続を採っていたものと考えられ、抗告人らが相続放棄の手続を採らなかったのは、相続債務の不存在を誤信していたためであり、前記のとおり被相続人と抗告人らの生活状況、MYら他の共同相続人との協議内容の如何によっては~遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり、ひいては法定単純承認の効果も発生しないと見る余地がある。
 
-そして、仮にそのような事情が肯定できるとすれば、本件熟慮期間は~○○公庫の請求を受けた平成9年9月29日ころから~起算するのが相当というべき~

 そうすると、本件申述を受理すべきか否かは、前記相続債務の有無+金額、右相続債務についての抗告人らの認識、本件遺産分割協議の際の相続人間の話合の内容等の諸般の事情につき、更に事実調査を遂げた上で判断すべきところ、このような調査をすることなく、法定単純承認事由があるとして本件申述を却下した原審判には、尽くすべき審理を尽くさなかった違法がある~

-なお、申述受理の審判は、基本的には公証行為であり、審判手続で申述が却下されると、相続人は訴訟手続で申述が有効であることを主張できないから、その実質的要件について審理判断する際には、これを一応裏付ける程度の資料があれば足りる~。

3 よって、原審判は失当~、これを取り消し、前記の点について更に審理を尽くさせるために本件を原裁判所に差し戻す~。

弁護士の小松亀一先生取り上げておられましたので読んでみました。(感謝)
小松先生は、上記妻、長男については、放棄は認められず、相続登記も有効とされています。(→これ
 
なるほど、と言う所ですが、
上記「その実質的要件について審理判断する際には、」と言う部分は、「申述受理の審判において」と言う意味で読んで良いのですよね?(原審のことを言っているのではなく?)
 
 申述受理手続は、申述あったことを公証するするのが主な目的であり、そのため主に形式的な点を審査されるけれど、一応は、実質的要件についても審査している訳で、ただ、その場合の審査のあり方としては、「一応裏付ける程度の資料があれば足りる」、と言う読み方をしたのですが・・・?