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最高裁:再転相続「知った時」

平成30(受)1626 執行文付与に対する異議事件
令和元年8月9日最二小判
裁判要旨

916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認or放棄をしないで死亡した者の相続人が~死亡した者からの相続により~死亡した者が承認or放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう。

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(1) ~銀行は~A外~に対し~連帯保証債務~各8000万円の支払を求める訴訟を提起~。平成24年6月~判決~その後~確定~。
(2)
ア Aは,平成24年6月~死亡~。Aの相続人は,妻+2名の子~,同年9月~子ら~相続放棄~。
イ ~Aのきょうだい~B(Aの弟)外1名を除く~相続放棄~。
(3) Bは,平成24年10月~,自己がAの相続人となったことを知らず,Aからの相続について相続放棄の申述をすることなく死亡~。Bの相続人~は,妻+子である被上告人外1名~。被上告人は,同日頃~Bの相続人となったことを知った。
(5)
ア ~銀行の承継人~上告人が,Aの承継人である被上告人に対して~承継執行文の付与を受けた。
イ 被上告人は,平成27年11月~,本件債務名義,~承継執行文の謄本等の送達~を受けた。被上告人は,本件送達により,BがAの相続人であり,被上告人がBからAの相続人としての地位を承継していた事実を知った。
(6) 被上告人は,平成28年2月~Aからの相続について相続放棄~申述~受理~。

原審

~916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,丙が~乙からの相続が開始したことを知った時をいう。
しかしながら,同条は,乙が,自己が甲の相続人であることを知っていたが,相続の承認or放棄をしないで死亡した場合を前提にしていると解すべき~,BがAの相続人となったことを知らずに死亡した本件に同条は適用されない。
Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間の起算点は~915条によって定まる
Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間は,被上告人がBからAの相続人としての地位を承継した事実を知った時から起算~,本件相続放棄は~期間内~有効~。

最高裁

(1) 相続の承認or放棄の制度は,相続人に対し,被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく,被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるもの~。
熟慮期間は~承認or放棄の~選択するに当たり~相続財産につき,積極+消極の財産の有無~状況等を調査し,熟慮するための期間~。
そして,相続人は,自己が被相続人の相続人となったことを知らなければ~承認or放棄の~選択~できないのであるから~915条①本文が熟慮期間の起算点として定める「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,原則として,相続人が相続開始の原因たる事実+~自己が相続人となった事実を知った時をいう~(昭和57年(オ)82・59年4月27日最二小判~)。

(2) ~916条の趣旨は,乙が甲からの相続について承認or放棄をしないで死亡したときには,乙から甲の相続人としての地位を承継した丙において,甲からの相続について承認or放棄のいずれかを選択することになるという点に鑑みて,丙の認識に基づき,甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって,丙に対し,甲からの相続について~選択~機会を保障することにある~。

再転相続人である丙は,自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって,当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではない。
また,丙は,乙からの相続により,甲からの相続について~選択し得る乙の地位を承継してはいるものの,丙自身において,乙が甲の相続人であったことを知らなければ,甲からの相続について~選択することはできない。
丙が,乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず,丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって,甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは,丙に対し,甲からの相続について~いずれかを選択する機会を保障する~916条の趣旨に反する。

~916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認or放棄をしないで死亡した者の相続人が~死亡した者からの相続により~死亡した者が承認or放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう~。

なお,

甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点について,乙において自己が甲の相続人であることを知っていたか否かにかかわらず~916条が適用されることは,同条が~適用がある場面につき,「相続人が相続の承認or放棄をしないで死亡したとき」とのみ規定していること+同条の前記趣旨から明らか~。

(3)~被上告人は,平成27年11月~本件送達により,BからAの相続人としての地位を自己が承継した事実を知った~,Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間は,本件送達の時から起算~。そうすると~本件相続放棄は,熟慮期間内~として有効~。
原審の判断は,結論において是認~できる。論旨は採用~できない。

民法→

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純or限定の承認or放棄をしなければならない。~(②省略)

第916条 相続人が相続の承認or放棄をしないで死亡したときは、前条①の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

永年、最高裁の判決が待たれていた判決ですね。

「自己のために相続の開始があったことを知った時」について、

原審が、916条は、(B)が(A)の相続人であることを知っていた場合のことであり、知らずに死亡した本件には適用されず、本件は、915条により「(C)が、BからAの相続人としての地位を承継した事実を知った時から起算~」としたのに対し、

最高裁は、916条により「(C)が~(B)からの相続により~(B)が承認or放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,(C)が承継した事実を知った時~」としています。

原審の後段と最高裁の上記部分の違いは、最高裁は、単に「Aの相続人としての地位を承継した事実」ではなく、「(B)が承認or放棄をしなかった相続における相続人としての地位を~承継した事実」を知った時としている部分のようですが、 

最高裁の方が正確であるとして、実際の所、どう違うのか良くわかりませんが、本件でみると、BがAからの承継の事実を知っていたかどうかに関わらず、ストレートに再転相続として916条によることになる、と言う違いが重要なのでしょうか?

いずれにしろ、「やっと出た」、と言う感じです。

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